2026年4月から、在職老齢年金の支給停止基準が見直される。
これまで「働くと年金が減る」ことを理由に就業調整をしていた高齢者にとって、大きな制度変更である。
在職老齢年金の仕組みと現行制度の問題点、そして2026年改正によって何がどう変わるのかを整理する。
在職老齢年金の仕組みと現行制度の問題点
在職老齢年金とは、65歳以上で働きながら厚生年金を受け取る人について、一定以上の報酬がある場合に厚生年金部分が減額される仕組み。なお、基礎年金は減額されない。
現行制度では、
「賃金(月額換算)+厚生年金」の合計が月50万円を超えると、超過分の2分の1が年金から支給停止となる。
たとえば、公的年金を月15万円受け取る65歳以上の人が、会社から月35万円の給与を得ている場合、合計は50万円であり、年金は満額支給される。
しかし、会社から月45万円を得ている場合、合計は60万円となり、50万円を超えた10万円の半分である5万円が年金から差し引かれる。
本来15万円もらえるはずの年金が10万円になるため、心理的な抵抗感は大きい。
また、ボーナスについては直近1年分を12分割し、月額報酬に加算する必要がある。
一般的な会社員で公的年金が月15万円程度と仮定すると、年金が減らされない上限は月35万円程度の賃金となり、ボーナス込みの年収は約420万円に抑えざるを得ない。
役職者や熟練人材であれば、この水準を超えるケースは珍しくなく、「年金が減るくらいなら働き方をセーブしよう」という就業調整につながってきた。
実際、2022年度末時点で働く65歳以上の約300万人のうち、約16%(約50万人)が在職老齢年金による支給停止の対象となっている。
2026年4月から何が変わるのか(50万円→62万円)
2026年4月から、この支給停止基準が月50万円 → 月62万円に引き上げられる。
たとえば、公的年金を月15万円受け取る人の場合、
月47万円(年収換算で約564万円)まで、在職老齢年金の削減を気にせず働けることになる。
これは、これまでの年収420万円上限と比べると、約140万円の差であり、実務上のインパクトは大きい。
企業側の視点でも変化は大きい。
現行制度では、65歳以上の人材に対して年収420万円程度までしか提示しづらかったが、2026年以降は年収560万円前後の条件提示が可能となる。経験や技術を持つ人材を引き続き戦力として活用しやすくなる。
なお、年金が全額支給停止となるラインも引き上がる。
公的年金月15万円の人であれば、月額給与77万円(年収約924万円)+年金15万円=92万円となり、62万円を30万円超過するため、その半分の15万円が支給停止となる。
部長クラスの年収帯でようやく年金がゼロになる水準である。
制度改正の背景と今後の影響
この見直しの背景には、明確な社会的要請がある。
・65~69歳のうち「65歳以降も働きたい」と考える人は約6割
・実際の就業率は約5割(働く年金受給者は約308万人)
・年金が減らないよう就業調整したい意向のある人は約3割
・深刻な人手不足と技術・経験の継承問題
・年金だけでは不足する老後資金
・老後の三大課題である「経済・健康・孤独」
働くことは、収入面だけでなく、健康維持や社会的つながりの面でも効果がある。
結果として医療費抑制や社会保障の持続性にもプラスに働く可能性がある。
公的年金月15万円を受け取る人が、
現行では年収420万円まで、
2026年以降は年収564万円まで、
年金カットを気にせず働ける。
この差が、個人の働く意欲と企業の生産性にどの程度寄与するのか。
在職老齢年金の見直しは、「高齢者を守る制度」から「高齢者が活躍する制度」への転換点といえかもしれない。


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